「冷や」「常温」「お燗」あなたは何派?温度で変化する日本酒の味わい。保存温度にもこだわろう。

「冷や」「常温」「お燗」あなたは何派?温度で変化する日本酒の味わい。保存温度にもこだわろう。

大吟醸酒、純米酒、しぼりたて新酒、にごり酒などなど日本酒にはいろいろな種類があります。それぞれの個性を、味わいを、より感じることができる飲み頃温度とは?また、それぞれの保管方法についても、どこで?冷蔵で?常温で?と、またまた温度が気なってきます。日本酒と温度の関係について掘り下げてみたいと思います。

冷やして美味しい日本酒 ~キリッと冷やして至高の一杯~

日本酒の味わいに影響を及ぼす酸味。この酸味にもクエン酸やリンゴ酸、乳酸など様々な種類があり、これを総称として有機酸と呼びます。
温度の違いによって日本酒に含まれる有機酸の味わいが変化するのですが、主に2つのグループに分類されます。
1つは冷やして美味しい「冷旨酸系」、もうひとつは温めて美味しい「温旨酸系」。その中間に常温で美味しい「中間タイプ」をさすことも。
それぞれの具体的な成分は、「冷旨酸系」はクエン酸、リンゴ酸、酢酸など、「温旨酸系」は乳酸、コハク酸、グルコン酸などが該当します。

フルーティな香りが特徴の吟醸酒はリンゴ酸やクエン酸を多く含んでいるので冷旨酸系。
なので、冷やして美味しい日本酒とは、吟醸香が魅力的な「純米大吟醸酒」「大吟醸酒」「純米吟醸酒」「吟醸酒」が該当します。
その他、火入れ処理をしていない「生酒」はフレッシュな味わいを楽むために冷やして飲みます。貯蔵時に一度だけ火入れをする「生詰酒」、火入れ処理をせず貯蔵し出荷時に一度だけ火入れ処理をする「生貯蔵酒」など「生酒系」も冷酒がオススメです。

冷やす温度はお好みですが、家庭用の冷蔵庫で冷やす程度の10℃くらいが一般的でしょうか。飲食店などでグラスまで冷やしてるケースもありますが、ちょっと行き過ぎのような気もします。生ビールじゃないので、さすがに味も香りもわからなくなってしまいます。

ただ、「みぞれ酒(氷結酒)」という風流な飲み方の場合は別です。この場合、凍る寸前ギリギリまでお酒を冷やし、グラスに注ぐことでできる結晶を楽しむ飲み方だからです。

みぞれ酒の楽しみ方

瓶の中のお酒を少し減らして、開栓した瓶を冷凍庫で2~3時間冷やし、-12~-15℃の過冷却の状態にします。静かに開栓してグラスに勢いよく注ぐと、衝撃でお酒の中の水分が結晶化して「みぞれ」のような状態になります。

お燗して美味しい日本酒 ~お酒は“ぬるめ”の燗がいい~

お燗して美味しい日本酒

味のしっかりした純米酒や熟成酒は温旨酸系。温めると美味しい「コハク酸」は貝の旨味成分として有名ですが、日本酒にも豊富に含まれ、味の決め手となっている成分です。コクのあるタイプの「純米酒」や常温で熟成させた濃熟タイプの「熟成酒」がおすすめです。
日本酒の有機酸は「乳酸」「コハク酸」「リンゴ酸」の3つでおよそ80%を占めており、この内、「乳酸」「コハク酸」は温めることで旨さが引き立つものです。それぞれの味はイメージしにくいと思いますが、酸味に関わるものと考えてください。

「清酒に含まれる有機酸の酸味と飲用温度の関係」(『日本醸造協会誌』106巻11号)という論文では、酸単体でどの温度帯と相性が良いのかを検証しています。「乳酸」「コハク酸」は何れも37~43℃という“ぬるめ”の温度帯で評価が高かったようです。ちなみに「リンゴ酸」は10℃の評価がベストでした。

そのまま常温で美味しい日本酒

居酒屋などで「冷やで」と注文される言葉を聞いたことはないでしょうか。この場合「冷や」とは、「常温」を指す言葉でした、ちょっと前までは。
秋の旬のお酒として「ひやおろし(冷や卸し)」が最近はスタンダードなものになってきましたが、意味としては、加熱殺菌をしないで常温のまま壜詰めすることを言います。「冷や=常温」が日本酒の世界では通例だったのです。

ただし、昭和の時代の終わり頃、吟醸酒がブームとなって以降、居酒屋などでは冷蔵庫に保管し、冷たく冷やして提供することが当たり前になってきました。冷蔵保存は品質管理がしっかりできますし、飲む際も華やかな香りを楽しめるので、それ以降も時代の流れとなりました。冷たい酒は「冷やして」「冷酒」「冷やし酒」などと呼ばれるようになり「冷や」という言葉は逆に紛らわしくなってきました。

ですから、今では常温の酒を飲みたいと思って「冷や」と注文しても通用しない可能性があります。「常温で」と言えば済むだけのことですが、「冷やで!」と注文することが、何となく通っぽいと思っていた人、もしくは当たり前にその言葉を使ってきた人にとっては、ちょっと寂しく感じるかもしれません。
常温で美味しい日本酒はオールマイティーなお酒が多いような気がします。常温は、その酒の風味が最も現れる温度です。味わいのバランスのとれていて、しかもリーズナブルな良酒・・・・・

日本酒はどこで、どんな温度で保管するのがいい?

裏ラベルを見ると「保存方法」という項目があり、「直射日光、高温を避けて保管。開栓後は早めにお飲みください」と書いてあります。残念ながら具体的ではありません。

日本酒のタイプによっても保存条件は変わってくるので一概に言えないためでしょう。よくあるタイプの日本酒は瓶詰めまでに2回の熱殺菌をします。飲んで美味しい温度で紹介した「常温」「お燗」で美味しい日本酒が該当すると思います。これらは結構タフな品質ゆえに常温で保管しても大きく変化することはありません。ただし、「直射日光を避けて」とあるように「光」にはとても弱い性質があるので、蛍光灯などの照明でも避けることをお勧めします。お酒の色が変化し、風味も損なわれてしまう可能性があります。「冷やして」美味しい日本酒の場合、繊細な風味の吟醸系や熱殺菌を1回しかしていない「生詰酒」や、一度も熱殺菌をしていない「生酒」は是非とも冷蔵庫で保管してください。

保存に関してお客様からいただく質問をご紹介すると

A:基本的には火入れ処理のしているお酒は常温保存で(黒帯なんて1年くらい寝かせたほうが良いなんて言う専門家もいました)
A:火入れ処理してない生酒は冷蔵保存
A:すぐに飲まないならば吟醸系は冷蔵庫で

日本酒には「賞味期限」が存在せず、「製造年月」のみが印字されています。メーカーによって見解は異なると思いますが、2度加熱殺菌をしているタイプで未開封の場合でおよそ1年を賞味期限の目安と考えたらよいと思います。ただし、新鮮さが特長の生酒、生詰酒などはできるだけ早くをおすすめします。人にプレゼントするには、いくら酒質が大丈夫といっても、受け取った立場で考えて失礼のない範囲の中で判断ください。

また、日本酒はそのままでは決して酢になりません。アルコールを酢に変える酢酸菌はアルコール度数8度以下でしか生えない菌であり、通常の日本酒のアルコール度数(14~15度)では生きられないからです。

おすすめの日本酒 - 温度別 -

冷やして美味しい日本酒 「加賀鳶 純米大吟醸 藍」

藍色のボトルが表すようにリッチな風味が楽しめます。華やかさ、軽快さ、キメ細かさ、旨味のふくらみ、キレの良い飲み口が特長のフルボディー大吟醸

お燗して美味しい日本酒 「黒帯 悠々 特別純米」

吟醸仕込みと純米仕込みとでキレの良い芳醇な旨味を持つ辛口に仕上げ、さらに蔵内でじっくりと熟成させた、ゆったりと落ち着きのある「悠々(ゆうゆう)」とした味わいです。

常温で美味しい日本酒 「加賀鳶 極寒純米 辛口」

軽快でキレの良い辛口でありながら、おおらかに米の旨味が広がる「旨い辛口」です。